四季酩酊 第105回
酒坊
女性ならアイシャドウやつけまつげにビューラーとかで鏡に向かい目を見る機会が多いが、私はヒゲを剃る時くらいしか顔を見ない。そのときだってヒゲの部位だけで目など見ていない。
鼻寄りの右目に小豆のようなものがあった。痛くはないが涙腺を塞ぐように出来ているので涙が出る。それに痒い。緑内障で通院している眼科の女医に「これは結膜腫瘍ですよ。切除しましょうか」簡単に言われたし、痛くも痒くも無いので簡単に取れると思った。
日帰り手術が4月11日に決まった。当日病院で血圧を測ると異常値だった。眼科の部屋での手術は出血の処置が出来ないという理由で、万全を期した手術病棟で行うと言われ、5月30日に延期になった。
昔から高血圧だった。会社の検診でも指摘されたが、指摘だけでどうこうしろとは言われなかった。1月に市の健康診断で「まだ、やりたいことがあるのならすぐに治療しなさい。何も未練がないのならこのままでいいですが」私より2つ齢を重ねた医者だった。「川柳をもっとやりたい」と言うと医者は俳句をやっていて会話も弾んだ間に、いろいろと説得されていたが、内科に行かなかった。高血圧のため手術が延期され、地元の病院に行った。
さて、5月30日、手術室はさしずめ工場のようだ。8台もの手術台がある。降圧剤を服用しているのに血圧は200を越えた。看護師が声を出して血圧の数値を言う。余計なことだ。「ポロって取れればいいな」と女医の独り言だが執刀の時間が長い。メスの走る音がする。「痛い」。麻酔注射を追加する。それでも痛い。スパッと切ってくれと心が叫ぶ。気を紛らせようと川柳を考えるが集中できない。局部麻酔だから手術室の会話も聞こえる。「ダメだ。取れない」完全には切除できないようだが、1.5㎝の傷口を縫合して、40分の手術は終わった。
2本の点眼薬を受け取って家に帰った。充血した眼を見るとまだ腫瘍はある。退院の検診で「根っ子が残っているのなら再発はあるの」聞くと「有り得る」と言われたのが気がかりである。


