文学青年私記 ⑪

四季酩酊 第88回

別れる

酒坊

私は駅前通りを走っていた。「どうしたのそんなに急いで」ぶつかりそうになった女は「廬山」の良子だった。夢二の描く女に似ている。20歳後半だと思われるが店では評判の女だった。「ひとを待たせている」「女の人?」「うん」頷いて走った。

息を整えて喫茶店「イヴ」の戸を開けた。見当たらないのでしばらく立っていると、ウエイトレスが「Uさんですか。・・少し遅れると電話がありました」私は奥の席に座った。A子は着物姿で現れた。私の目論見を何も感じない顔で見つめてきた。
「これ」
描いた絵を差し出した。女の髪の毛にぐるぐる巻きにされた男を描いていた。コーヒー
「なに?」
「別れよう」
「・・・あなたは私に疑うことを教えた」
突然に大声で泣いて階段を下りた。後を追う間は無い。

夜、湯の川のA子の家に同僚のSを連れて行った。姉の千代が洞爺湖から帰っていた。社員旅行で洞爺湖に行った時に千代とは会っている。
「どの着物にしようか悩んで、出掛けたのに・・・」
私に逢うための女心に嬉しく千代の言葉に決心が揺れる。私は翻弄されるA子に心底、疲れていた。夜が更けるまで待ったがA子は家に帰らなかった。

翌日、喫茶「美鈴」で逢った。
「あなた恋人が出来たの」
「そうかも知れない」
「この前、店に来た女でしょう。わたし、ピンと来たわ」
会社の忘年会の二次会に6人でA子の店に来た。女子社員が2人いた。
「途中で帰った人でしょう」
A子は真剣な眼差しで判ったと言った。だから、A子から執拗にチークダンスを仕掛けた。A子は戦っていた。

修復は難しい。店の他のホステスに「寿司金の板さんとおかしいわよ。Uさんしっかりしなさい」忠告をされたりしたが、別れる覚悟でいた。

函館の二十歳のかけら夢小路  酒坊