文学青年私記 ⑱

四季酩酊 第98回

 横浜時代(四) 二人誌発刊と流氷を歩く

酒坊

(一ケ月も休載してしまった。こう長いと記憶の糸が切れ切れになって、尚も継続が難しくなる。川柳結社の同人になった。無器用な性格なので、そっちの方に比重が傾いたのかも知れない。さあ、再開。)

同級生のAは電電公社(現:NTT)に勤めていたが、詩を書いていた。詩集「轢かれた鳩」を刊行していた。写真もプロ並みで後年3冊ほど写真集を出している。彼は私の結婚式にも函館まで来てくれた。二人の夥しい書簡もある。

1980年(昭和55年・37歳)11月に詩と小説の〈二人誌〉を創刊する。題名は版画の「虜」を使い、30頁で500部作った。創刊号は「奇妙な関係」「石の庭」「優しき番」とすでに評価されていた短篇を発表した。

翌年の2月、義弟の結婚式に参列した夜、網走に向かった。流氷を見たい衝動に駆られて防寒服を義弟に借りて、夜行列車に乗った。

『札幌で特急に乗り継ぎ、ひたすら雪の中を疾走する。上川を抜け遠軽へ走る。10時15分。車窓には天眼鏡で光線を集中させたように太陽が眩しく目を射る。(略)網走駅に12時55分に着いた。』(掌編・寒紅)そして、観光案内で市内の地図を貰い流氷の海に行く。『オホーツクの海に降り、氷丘にリュックを下ろし、ウイスキィを氷壁に積もった雪の中に埋めた。氷丘にできたツララを折って口に含むと薄い塩味がした。(略)氷の上を歩き出した。どこかでギシッと音がした。見渡しても誰もいない。白日の闇に不安が走る。その音は自分の足元の氷の軋み(略)積もった雪で薄氷の見分けができない。靴先で雪を掻くと氷の下はシャーベット状で海水がにじみ、靴を濡らしはじめた。(略)振り返ると帽子岩は彼方で、街も天都山も霞がかかっていた。大氷原の真中で莨に火をつける。風が雪を飛ばせる音しか聞こえない。このままここに埋もれてもいいといった諦観があった。』(寒紅)17時まで流氷を歩いて、宿に荷物を置いて、街に飲みに行く。朝、天都山の夥しいカラスの声に起こされる。

ダイヤモンドダストを浴びながら「流氷コース」の観光バスに乗る。女優の高橋洋子に似た若い女性が私の隣に座った。ひとり旅で毎年、夏は原生花園、冬は流氷を訪ねてきたが、今年が見納めかも知れないと笑った。卒論を出してすぐに来たが、3月19日の卒業式までには帰らないと、と言った。二人誌「虜」を別れ際に渡した。その奥付を見て、絵葉書が届いた。『まだ小清水に居て、朝に夕にオホーツクを眺めています。毎日変化があります。(略)東京で偶然にでも会ったら、恐いですね。美香』きれいな字だったが住所は書かれていない。うす橙色のダウンジャケット纏った彼女を時折思い出していたが、再会することはなかった。

流氷に寒紅ひとつ花を添え  酒坊

「文学青年私記 ⑱」への2件のフィードバック

  1. 毎回難しくも楽しく読ませて頂いています。
    私も札幌に3年6か月居ましたが冬の旅行の発想は全然有りませんでした、
    せいぜいすすき野で暖を取る程度でした。
    ただ夏には道東の原生花園、網走、美幌峠など旅行しましたが物見遊山で貴兄の様な随筆が出来るなんて当たり前ですが持ち合わせてはいません。
    この時代の少し前に読んだ「何でも見てやろう」(小田実のベストセラー)は旅行エッセイで痛快でした。
    上原さんは学生時代から小説を書いて投稿したり、自分で出版しているそうですね、本は読んだ事は有りませんが随筆からだと、純文学で芥川、太宰治系統ですか?若い頃目指していた分野の様な気がします、何も分からず失礼ですが又の機会に色々お教え下さい。

    1. 小結さん、おはようございます。
      ああ、もう昼ですね。昨日、月例の句会「東京みなと番傘川柳会」に行き(出席者38名・投句者25名)、懇親会でしたたかに飲んでしまい、まだ思考回路が正常でありません。
      昨日の入選句は、
      「導火線咥えて妻がいざり寄る」(線・伊藤こうか選)
      「父親の代わりになれぬ母子家庭」(代役・内田恵子選)
      「代役の教師に注ぐ興味の目」(〃)
      「数えたら3万日も生きている」(数える・丸山芳夫選)
      「飛び乗った最終電車逆を行く」(しまった・犬塚こうすけ選)
      でした。欲張りですが全句入選が最終希望です。
      さて、書いていた小説はほとんどが短編で純文学です。入門が龍之介や太宰だったのでその影響でしょう。山口瞳や立原正秋も全巻読んだりして、影響を受けました。大阪単身赴任のころは、300枚の長編を書いたこともあります。これは大衆小説かもしれません。
      今は、根気が無くなったのと感性が鈍くなっているので書けそうもありません。せいぜい、短詩形文学で生涯を終わることでしょう。

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